Lesson 2 生成AIの基礎知識
Chapter 3 生成AIが与えた影響
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AIの歴史
実はAIの歴史は1950年代から始まっています。基礎知識としてAIの今までの歴史を振り返って理解しておきましょう。
第一次AIブーム(1950年代~1960年代)
第一次AIブームは、1950年代から1960年代にかけて起こりました。この時期は、AIの概念が生まれたばかりの頃で、研究者たちは「コンピュータに考える力を与えられないか」と考え始めました。例えば、コンピュータに「りんごとバナナの違いは何か」といった質問をすると、コンピュータが論理的に答えを導き出すシステムの開発が試みられました。しかし、当時のコンピュータの性能は今ほど高くなく、柔軟な対応ができなかったため、実用化には至りませんでした。
第二次AIブーム(1980年代)
第二次AIブームは、1980年代に訪れました。この頃になると、コンピュータの性能が向上し、特定の分野に特化した「エキスパートシステム」と呼ばれるAIが開発されるようになりました。例えば、医療の分野では、医師の知識を学習したAIが患者の症状から病気を診断するシステムが作られました。しかし、これらのシステムは前提となる知識の入力に大変な手間と時間がかかり、また応用できる範囲が限られていたため、次第にブームは下火になっていきました。
第三次AIブーム(2000年代後半~現在)
2010年代後半から現在に至るまで、第三次AIブー ムが続いています。この時期は、機械学習や、「ディープラーニング」と呼ばれる画期的な技術が登場したことで、AIが飛躍的に進歩しました。ディープラーニングは、人間の脳の仕組みを模倣した「ニューラルネットワーク」を用いて、大量のデータから自動的に特徴を学習する手法です。
現在の生成AIの流行は、第三次AIブームの一部と見なすこともできますが、新たな第四次AIブームの始まりと見る専門家もいます。生成AIは、以前のAIブームで重視された識別や予測を行うAIとは異なり、様々な入力から出力を作り出す能力があるため、適用範囲が大幅に広がり、より多くの人が活用しているからです。それにより、社会にどのような影響を与えているかを見てみましょう。
生成AIの社会的インパクト
生成AI、特にテキストを扱う能力に重きを置くChatGPTなどが社会に与える影響は計り知れないものがあります。この技術革新の持つ重要性を理解するには、その背景、応用範囲、および将来性に焦点を当てて考察する必要があります。
1. 膨大なデータの処理が可能に
インターネットの登場以来、情報の量は指数関数的に増加し続けており、この情報の海の中から必要な知識を見つけ出し、理解することは依然として大きな課題です。生成AIは、大量のテキストデータから必要な情報を抽出し、要約や解説を行うことで、利用者が求める情報に迅速にアクセスできるようにし、わかりやすい言葉で理解できるようにしています。これは教育、研究、日常生活において革命的な変化をもたらします。
2. 創造性とイノベーションの促進
生成AIは、新しいアイデアや物語、さらには研究論文やコードまで、人間が思いつかなかったような創造物を生み出すことができます。これにより、創造性とイノベーションが大きく促進され、芸術、文学、科学、技術の各分野で前例のない進歩が期待できます。
3. 効率性と生産性の向上
日々の業務、特に書類作成、メールの返信、レポートの作成など、テキストベースのタスクは多大な時間を消費します。生成AIの能力を活用することで、これらのタスクを自動化し、人間がより創造的で価値の高い作業に集中できるようになります。これは、全産業における生産性の向上に直結します。
仕事やビジネスの変化予測
生成AIの進化はビジネスにおいて、様々なルーティンタスクやデータ分析がAIによって自動化されるようになるでしょう。従来の個々の作業を行うプレイヤーの重要性が低下し、全体の流れを見渡し管理するマネージャーの役割がより重要になり、会社のピラミッド構造がクリスマスツリーのような形に変化する可能性があります。

では、生成AIによってビジネスのあり方はどのように変化するのでしょうか。生成AIによって起きる変化の一つに「一次情報の重要性の高まり」があります。
一次情報の重要性の高まり
生成AI、特に大規模言語モデル(ChatGPTなど)の学習過程では、公開されている大量のテキストデータが利用されます。これにより、一般的にアクセス可能な情報には強いものの、最新または独占的な一次情報に対しては反応が限定される場合があります。このため、自社独自のデータや最新の研究成果など、他にはない一次情報が非常に価値を持ちます。
生成AIによって自社が持つ独自のデータや知見を活 用することで、新たな価値提案や競争優位が可能となります。例えば、企業が市場動向、消費者行動、製品性能などの一次情報を収集し、これを生成AIと組み合わせることで、より優位性の高いサービスを構築できる可能性があります。
生成AIとどのように付き合っていくことが求められるか
生成AIの技術発展を前に、漠然と「人間の仕事を奪う」「人間の知能を超えた」と、危機感を感じてしまう人も多いでしょう。これは知識量や処理速度の面で生成AIが優位にあるためですが、生成AIの基本的機能に過ぎません。本質的に重要なのは、生成AIをどのように利用するのか、ぶれない軸の存在です。

生成AI、特に大規模言語モデルは広範なデータを学習していますが、特定の「軸」や視点を持っているわけではなく、あくまで入力された情報を基に処理を行う技術です。生成AIは意見を持たないスーパー評論家と見なすこともできます。よって、生成AIの使用にあたっては「生成AIが」と主体的に述べるのではなく、「生成AIで」と述べ、ツールとしての役割を強調するべきです。だからこそ生成AIに対する指示文(プロンプト)を通じて、使う知識の軸を指定することが重要です。
たとえば、著名人がライターに本を依頼する場合、著名人自身の視点や意見が本の中心になりますが、書く作業はライターが行います。同様に、生成AIを使用する際も、人間が明確な軸や視点を持ちつつ、その上で生成AIの能力を利用することで、より迅速かつ効率的に情報を処理しアウトプットを生成することが可能です。
このように、生成AIを効果的に使うためには、生成AIが持つ膨大な知識を利用しながらも、人間がその使用目的や方向性を明確に定義することが不可欠です。生成AIはあくまで強力なサポートツールであり、最終的なアウトプットの評価は人間の視点に依存するべきでしょう。
生成AI時代に求められるスキルや知識
生成AI時代には、「高まるプロンプトエンジニアリング力とハードスキルの重要性の変化」と「ソフトスキルの重要性の高まり」の2つの変化が起きていくでしょう。
高まるプロンプトエンジニアリング力とハードスキルの重要性の変化
従来のハードスキル全般の相対的な重要性が低下しつつあります。ハードスキルとは、特定の職業や業務に関連する技術や知識を指します。プログラミング、データ分析、レポーティングなどの作業が自動化され、生成AIによって効率的に行われるようになるため、個々の業務に特化したスキルの重要性が低くなる可能性があります。
しかし、ハードスキルが完全に不要になるわけではありません。生成AIのアウトプットを適切に評価するためには、一定程度のハードスキルが依然として必要不可欠です。生成AIによる出力が正確で目的に合致しているかを判断するには、その分野に関する知識や経験が求められます。
一方で、ハードスキルの中でも、例外的にプロンプトエンジニアリング力の重要性が高まっています。プロンプトエンジニアリングとは、生成AIの機能を最大限に引き出すための技術です。このスキルを身につければ、より複雑で高度な問題解決が可能になり、効率性と有効性を飛躍的に向上させることができます。
ただし、生成AIのアウトプットの質は、それを利用する人間のスキルや知識に大きく依存します。生成AIの性能が人間を超えることも考えられますが、現状では人間が一定のハードスキルを持つことが重要です。
このように、ハードスキルの相対的重要性は低下する一方で、生成AIのアウトプットを評価・活用するための一定のハードスキルと、プロンプトエンジニアリング力が重要視される傾向にあります。
高まるプロンプトエンジニアリング力とハードスキルの重要性の変化
ソフトスキルとは、人間関係を築き、効果的にコミュニケーションを取るための能力です。これにはコミュニケーション能力、適応性、問題解決能力などが含まれます。これらのスキルはテクノロジーによる代替が難しく、人間特有のものです。生成AIが多くのタスクを自動化しても、複雑な人間の感情を管理する能力は引き続き重要です。
コミュニケーション能力
生成AIを活用する際には、周囲の人々との効果的なコミュニケーションが重要です。生成AIを使う目的や期待される結果を明確に伝え、その出力内容を分かりやすく説明する能力が求められます。また、他者の懸念や疑問に真摯に耳を傾け、信頼関係を築くことが、生成AIを円滑に活用するために不可欠です。
問題解決力
生成AIは問題解決のための強力なツールですが、生成AIの出力を適切に分析し、活用するには人間の洞察力が必要です。複雑な問題に直面した際、生成AIと協働しながら創造的かつ効率的な解決策を見出す能力は、あらゆる分野で高く評価されます。
批判的思考力
生成AIの出力は、常に完璧とは限りません。情報の正確性を評価し、論理的に思考し、バイアスのない意思決定を行う能力は、生成AIの出力を適切に分析・活用する上で欠かせません。批判的思考力を養うことで、生成AIの結果を鵜呑みにするのではなく、その内容を吟味し、必要に応じて修正や改善を加えることができます。
柔軟性と適応力
生成AIの技術は急速に進化しています。新しい技術や環境の変化に迅速に対応し、柔軟に適応する能力は、現代の職場環境において非常に重要です。絶え間ない学習と成長の姿勢を持ち、新たな課題にも臆することなく取り組む姿勢が求められます。
倫理観
生成AIの活用には、倫理的な側面も伴います。生成AIの出力が偏見を含んでいないか、生成AIの活用が社会に及ぼす影響は何かなど、倫理的な観点から判断を下す能力が必要です。生成AIを責任を持って活用し、人間の尊厳を守りながら、社会の発展に貢献することが求められます。
ソフトスキルの重要性については、経済産業省から発表された、「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」でも言及がされています。
出典:https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230807001/20230807001.html
